ベジフルサポータージャーナル

佐賀県オロチ退治伝説に由来する伝統野菜「戸矢かぶ」

伝統野菜・食文化

佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスター前田成慧です。

今回は「有田焼」で知られる佐賀県西部に位置する有田町へ、伝統野菜「戸矢かぶ」を生産する保存会の方々を取材しました。初代会長の松尾靜さん(写真右)は87歳とご高齢ですが、まだまだ現役です。
戸矢かぶ
「有田戸矢かぶの会」は2010年11月15日に発足し、現在6名の生産者が伝統野菜「戸矢かぶ」の栽培に取り組んでいます。
戸矢かぶ
「戸矢かぶ」は佐賀県有田町の南端、長崎との県境に位置する戸矢地区のみで栽培されています。ソフトボールほどの大きさのかぶで、色は肥大した根の上半分の皮が赤紫色をしており、肉質は柔らかく甘味とほどよい歯ごたえのある土地固有の伝統野菜。「根の部分が白い状態のものが良いかぶで、まさに戸矢かぶらしい」と松尾さん。
戸矢かぶ
戸矢かぶは、1955年(昭和30年)代ごろまでは年間6トンの出荷量があったそうですが、形が不揃いで収量が安定しないことから、だんだん生産者数が減り、戸矢地区に住む農家が自宅で楽しむ程度しか栽培していませんでした。
 戸矢かぶ
そこで伝統野菜の復活のため、7年前に有志で「有田戸矢かぶの会」を立ち上げました。現在10アールほどの畑で栽培を行い、年間収穫量は約1.5トンまでに増えています。
 戸矢かぶ
9月終わり頃に播種し、収穫時期は11月下旬から1月末まで。収穫から出荷まで、メンバーで集まって作業しています。佐賀県や長崎県の直売所やスーパーとイベントのみで販売するだけですが、年々認知度は高まってきています。

「戸矢かぶ」はなんといっても上半分の皮が赤紫色で美しいのが特徴。平安時代から伝わるこのかぶは、面白い伝説があります。
戸矢かぶ
1164年、弓の名手・源為朝がこの地方を暴れまわっている大蛇目がけて矢を放ち、一本目が大蛇の固い鱗にあたり跳ね返って一軒の家の戸に当たったことから、その地区が「戸矢」という地名になりました。二本目の矢が大蛇の頭に見事に当たり、大蛇は血煙を上げて死に絶え、元々白いかぶが作られていた戸矢の畑にその大蛇の血が流れてきて、土の上に出ている部分だけが赤紫色に染まり甘く美味しくなったと伝えられています。
戸矢かぶ
かぶは無病息災祈願の春の七草にも「スズナ」として登場しますし、「戸矢かぶを食べると一年中病気にかかりにくい」とも伝えられていて、松尾さんは「おい(俺)は、風邪ばひかん。戸矢かぶをごっと(たくさん)食いようけん」と笑顔で語ります。

そして、戸矢かぶを手に「こぎゃんとしとかんといかん(こんな風にしていなければならない)」と、その理想の形と色を見せてくれました。「でも、これが寒かときの仕事ばい。おいは痩せとるけん骨に堪える」という言葉に、冬場の作業の大変さを痛感しました。

ところで、こちらは通常販売できない戸矢かぶ。
戸矢かぶ
傷があったり、赤すぎるものは出荷できません。伝統野菜は不揃いが多く出てしまうため、同会のメンバーは加工品づくりにも積極的です。昨年5月には乾燥させた葉やおから、砂糖、塩、ごまを使った「戸矢かぶ物語」という名のふりかけが完成。
戸矢かぶ
ラベルは有田高校のデザイン科の生徒たちがデザインしました。伝承にあるストーリーがよく反映されているイラストです。

その他、クッキーや味噌漬け、色と形が美しい菊花切りの酢漬けも販売しています。菊花切りの酢漬けのラベルは、有田焼の老舗「香蘭社」が協力してデザインされたそう。
 戸矢かぶ
陶器に描く絵付けのようなブルーが素敵なイラストです。酢にかぶの皮の色が溶け出し、とても美しいピンク色に仕上がった一品です。

この菊花切り、割り箸を野菜に沿えて切れば、自宅でも簡単に作ることができます。
戸矢かぶ
 【生産者直伝!菊花かぶのレシピ】
(材料)
・かぶ・酢・みりん・砂糖・塩(砂糖・みりん・酢は1:1:1の割合で調味液を作っておきます)

(作り方)
1.よく洗ったかぶの天地を切ります。皮は剥きません。

2.茎の面を下にして底を切り落とさなように割り箸などを当てて置き、細かい格子状に切れ込みを入れます。

3.かぶの重量の2.5%の塩を加え、しんなりするまで30分ほど重しをします。

4.しんなりしたかぶをザルにあげ水気を切ります(決して水洗いしないこと)。

5.味がなじむまでかぶを調味液に浸します(一晩置くとよくなじみます)。

6.赤唐辛子の輪切り、柚子の皮を加えても良いです。

 実は「戸矢かぶ」、縦半分に切るとハートの形になるんです。販売する時にはハートと恋の矢を掛けて売ると面白いのでは?という話も持ち上がっているそうで、今後新たな商品が開発されるかもしれませんね。私もとても楽しみです。  
  戸矢かぶ
最後に、戸矢かぶの貴重な種を見せて頂きました。この小さな種の中に個性が詰まっています。この種は門外不出で有田町の戸矢地区でしか保管されていません。  
  戸矢かぶ
本来農家の人たちが自分で種を採り地域で固定化された在来品種たちを守ってきました。農村部では嫁入り道具に種を持っていく風習があり、作物のゆるやかな多様性を育み、村全体でその作物を育てていこうという意識がありました。種を守るということは、何代も何代も良い状態の野菜を選別してきた農家の努力の結晶です。  
戸矢かぶ
戸矢かぶの生産者のおすすめの食べ方は5ミリほどの厚さに輪切りにし、オリーブオイルで焼いただけのシンプルなもの。素材の味を堪能できる食べ方です。また、肉質が緻密で柔らかいので生で食べても美味しいのですが、スープにするとトロッととろけて格別。
戸矢かぶ
また、塩を加えるだけの浅漬けは柔らかくさくさくとした食感。甘味とともに上品なうま味を感じる美味しさでした。いくつでも食べられます。
戸矢かぶ
スライサーで薄切りにしたかぶをさっと茹で牛肉と一緒にポン酢で食べる食べ方も好きです。すき焼きにもこの戸矢かぶは合うそうです。
戸矢かぶ
もうひとつ、生産者直伝のおすすめ料理が「かぶの葉ピリ辛炒め」。葉の部分を使ったご飯がもりもりすすむレシピです。
戸矢かぶ
【かぶの葉ピリ辛炒め】
(材料)
・かぶの葉・ちりめんじゃこ・しょうゆ・砂糖・ごま油・たかの爪

(作り方)
1.かぶの葉はさっと湯通しし、細かく切って絞り水気を切っておきます。

2.ごま油でかぶの葉を炒め、ちりめんじゃこを加えて炒めます。

3.しょうゆと砂糖でお好みの味をつけ、輪切りのたかの爪をお好みで加えて仕上げます。

【食育メモ・伝統野菜とは】
地方野菜とも言われ、その土地で古くから伝わる在来品種。採種を繰り返していくうちにその土地の気候や風土に合い、食文化を育んできました。香りやえぐみ、辛味、うま味、甘味など、個性豊かで魅力的です。

栽培は手間がかかり、生産効率が悪く、不揃いのために流通に乗れず、生産が減少しています。でも、最近は全国各地で「伝統野菜」の復活を目指す動きが盛り上りを見せています。

全国各地に赤かぶは存在しますが、この地域の人々の食文化の中で育まれ、守られてきた「戸矢かぶ」は、これからもしっかりと守り伝えていかなければなりません。その土地に合った野菜は、その土地に住む人にも合うものだと私は考えます。【地元の旬のたべものは身体に良い】という意味の『身土不二』の言葉のように、地場野菜を大切に消費し、日常生活の中で地産地消を心がけていけたらいいですね。

佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスター前田成慧でした。

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