ベジフルサポータージャーナル

長野県信州が誇るスローフード~自然と人の手が生み出す天然角寒天~

まつのベジフルサポーターレポート

長野県まつのベジフルサポーター 野菜ソムリエプロ ジュエルフルーツクリエイターの戸谷澄子です。

寒さが一段と厳しくなった信州諏訪では、特産の角寒天作りの季節を迎えました。長野県諏訪地域は、日本で唯一の天然角寒天の産地です。

(写真提供 株式会社マツキ)
これは諏訪地域ならではの冬の風物詩、角寒天の製造風景です。長野県内でもとりわけ寒さが厳しく、日中は晴天の日が多く、寒暖の差が激しく、降水量と湿度が少ない内陸的な気候で、角寒天づくりにふさわしい条件をそなえた地域です。諏訪地域で寒天づくりが始まったのは、今から180年ほど前。冬季は農閑期となり出稼ぎによって生計を立てる農家が多い中、この諏訪の気候を活かした角寒天の製法が広められ、農家の副業として広がっていきました。


こちらは、株式会社マツキ 代表取締役社長の松木 本(まつき もと)さん。今回私は、株式会社マツキの寒天工場にお邪魔し、その製造に密着し、色々とお話をうかがいました。

寒天ができるまで
角寒天の原料となるのは海藻(以下、原藻と記します)で、現在はテングサとオゴノリが使用されます。これらは全国各地より、また海外からも仕入れています。これら原藻の種類ごとに、寒天の成分の含有量や性質が異なります。そのため、角寒天の生産は、これまでのノウハウをもとに数種類の原藻がブレンドされ行われます。
信州に海はありませんが、寒天をつくるためには信州の冬の気候がどうしても必要なのです。

乾燥させた原藻は大小ありますが、大きいもので1袋100kg入っています。1日の製造で、約800㎏の原藻が使われます。

原藻は、まず水に3時間ほど漬けてやわらかくしますが、ここで、テングサとオゴノリを用途に応じてブレンドします。テングサのみで作る角寒天は粘りが強く扱いにくくなるので、一般的な角寒天はテングサ70%・オゴノリ30%位の割合で混ぜ合わせています。特注の製菓用(羊羹など)の角寒天はテングサ100%でつくるそうです。

原藻についた付着物を洗い流します。ここではきれいな信州の井戸水を使います。なんと、ミキサー車のドラムを利用して回転させながら洗っていました。「なるほど!」と、意外な活用法に驚きました。

きれいになった原藻は、再び3日間水に浸し、アクを抜きます。そして煮熟(しゃじゅく)の工程へ進みます。工場内は磯の香りでいっぱい…。

容量12トンの釜が2台。昔は大釜に下から火を焚いて煮ていましたが、作業効率を高めるために7年前からステンレス製の釜を導入し、蒸気の熱を利用し煮熟しているそうです。

大きな釜の上部。釜の蓋を開けるとドッと湯気が立ち昇り、次から次へと原藻が投入されていきます。釜1台に対して8トンの湯が入ります。この作業は午後2時頃から行われ、約2時間煮たのち8時間釜の中で蒸らされ、約10時間後の深夜にろ過の作業へと進みます。煮熟全体の時間が長くなりすぎると、凝固する粘度に影響がでてしまうので、深夜も作業は続けられます。

白い布に覆われたいくつもの四角い穴の中に、原藻の成分を抽出した液体と煮終わった原藻を同時に流し込み、寒天液だけをこし出します。

コンクリートの大きなブロックで重石をし、地中のタンクにろ過された寒天液が溜まっていきます。

搾り出しを終え、搾りかすとなった原藻をクレーンで引き上げます。搾りかすは、このあと畑の肥料として再利用されているそうです。

ろ過された寒天液は、朝一番で諸蓋(もろぶた)と呼ばれるプラスチック容器約1000枚に注ぎ込まれ、凝固するまでそのまま5~6時間置きます。

室温で寒天液が固まりトコロテン(生寒天とも呼ばれます)ができました。

天切り包丁で22本に切り分け、いよいよ寒空の下に運ばれていきます。

生寒天を野外に出す「天出し」と呼ばれる作業。1日およそ25,000本の寒天が並べられていきます。生寒天はほぼ水分なのでずっしりと重く、生寒天が並ぶ台ひとつ動かすのも重労働です。

気温はマイナス5度。日差しは温かくとも、作業する手足はかじかみます。

天出ししてから、凍結・融解・乾燥を繰り返します。やがて水分が抜け、寒天になっていきます。

真ん中から寒天の干される向きが違っています。(←南  北→)

写真左は南側を向いています。写真右側は北側向きです。これは、寒天の凍結・融解・乾燥を繰り返す上で、凍らせたいときは直射日光を避け北側に向け、融解させたいときは南向きにして温かい日差しを当てているのです。つまり、寒天を干す台を乗せている渡し棒(寒天屋さんは「とかしぼう」と呼ぶそうです)は東西に渡して設置します。「なるほど!だからどの寒天屋さんを見ても、みんな同じ方角に向いてに干しているわけだ!」と納得しました。

天出しから3日経った寒天。しっかりと全体に氷が入っています。このあと約10日間かけて乾燥→再凍結→乾燥という過程を繰り返します。凍った寒天が一度極端に融解しただけでも、仕上がりの角寒天の形がゆがんでしまったりするので、気温や気候を見極めながら、日に当てたり遮ったり、職人の長年の感覚で日々調整しながら寒天にしていきます。とても手間がかかる作業です。


「簀取り(すどり)」と呼ばれる作業。天出しから約2週間後、あらかた乾燥した寒天を簀(す)へ移し変え最終乾燥。

野外の棚に移して更に4~5日乾燥させます。

そして寒天特有の単位「ガラ束」(約600本)に束ねられ、倉庫に保管されます。

それぞれのパッケージに梱包され、店頭に並びます。

寒天の種類
寒天には大きく分けて2つの種類があります。ひとつは、冬の寒気を活かして凍結・融解・乾燥によってつくられる「天然寒天」で、角寒天、糸寒天がこれにあたります。もう一つは機械装置により加圧・脱水・乾燥させてつくられる粉末状の「工業寒天」です。

角寒天が注目される理由
最近では「和のスーパーフード」とも呼ばれ、寒天は伝統食としてだけでなく、健康食品として、新陳代謝を促し、肥満防止、便秘予防、動脈硬化、大腸ガンの予防に効果が期待できると人気が高まっています。更に近年、角寒天や糸寒天などの天然寒天には「アガロペクチン」という成分が多く含まれ、この成分がコレステロール値を低下させたり、血糖値改善に効果が期待できるという発表がされ、さらなる注目を集めています。 【参考文献:長野県寒天水産加工業協同組合制作「寒天ニュース」、松橋鐵治郎「寒天・ところてん読本」(社)農山漁村文化協会(2008)】

トコロテラスで寒天料理を味わう
株式会社マツキが直営するカフェ&レストラン「トコロテラス
こちらではトコロテンを使ったヘルシーなお食事がいただけるとあって人気です。

寒天は自然と人の手でつくる昔ながらの製法
天出しから約20日間、気象条件が整えば良質な角寒天が毎日生産されます。天然寒天を作るために重要なのは、マイナス5度以下の日が何日も続くこと。昔は年間で100日ありましたが、今では温暖化も進み70日と短くなってしまっています。

その間、大雨や雪の日は寒天を濡らさないように「改良台(かいりょうだい)」と呼ばれる寒天がならべられた台を重ねて板をかけ雨をしのぎ、晴れたらまた広げるという手間のかかる作業を繰り返します。今では気象予測が簡単に確認できますが、昔は山にかかる雲の様子を見て天気を予測し、突然の雨に見舞われたら、夜中であろうと飛び起きて、家族総出でこの作業をしたそうです。常に天候をうかがいながら、時間をかけながらの作業。効率化を図りながらも、昔ながらの製法で丁寧に作られています。

天気が悪い日が続くと20日では完成せず野外の寒天が増え「庭づまり」という現象が起こり、やむなく釜を止めざるを得ません。また、暖かい日が続いて凍結しにくくなったり、何日か雨の日が続いてしまうと乾燥し切らない状態が続き、最悪の場合は廃棄になってしまうことも。雪ならまだ良いのですが、雨は泥跳ねして寒天を汚してしまうので、これもまた大変です。

更に、1日25,000本の寒天が20日間分野外に干せるだけの広大な田が必要です。近年では田畑の宅地化が進み、寒天を広げる農地を確保することも難しくなってきている現状があります。戦前は諏訪地域に200軒以上あった寒天屋も、今ではたった10軒ほどとなってしまいました。信州が誇る角寒天を守り続けるためには、さまざまな課題があります。

信州の角寒天は、自然と人の手間暇かけた作業によってのみつくられる伝統食材。寒天は、まさに信州諏訪が誇るスーパーフードであり、スローフード(その土地にあった生産方法で丁寧に生産され地域で守られている食)です。後世に残したい希少な産業であると、あらためて感じました。

長野県まつのベジフルサポーター 野菜ソムリエプロ ジュエルフルーツクリエイターの戸谷澄子でした。

 

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