鳥取県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエ上級プロ・アスリートフードマイスター2級の長島明子です。
日本でエリンギの栽培が開始されたのは1993年(平成5年)。日本での栽培の歴史は四半世紀と短いですが、近年は食卓に上ることも増えましたね。まだ、エリンギが日本人にとって今ほど馴染みがなかった1998年から15年の歳月をかけて開発された、プレミアムエリンギ「濃丸(こいまる)」をご紹介します。
その名が示す通り、かさの色が濃くて丸い濃丸。全体に丸みを帯びた形がきれいで、かさの茶褐色と柄の白の色のコントラストが美しいエリンギです。
プレミアムエリンギ濃丸は、鳥取県にある一般財団法人日本きのこセンターの菌蕈(きんじん)研究所で開発されました。濃丸の生みの親のお一人である奥田康仁主任研究員にお話を伺いました。
開発のきっかけは、生産者が、きのこから飛散する胞子を大量に吸い込むことで、通称「きのこ肺」と言われる呼吸器疾患を発症することが問題となっていたこと。エリンギはシイタケに比べ、約10倍の胞子が飛散する特性があります。これを解決するために、胞子を作らないエリンギの研究が始まりました。
エリンギの菌糸に紫外線を当て、取得した約8000株から胞子形成に関わる遺伝子に変異が起こっていた1株を見出しました。これを元に味や食感、形が良い栽培品種を開発するため、菌蕈研究所が世界各地から取り寄せた株と交配や選抜を繰り返し、世界で初めて無胞子エリンギの実用品種の育成に成功しました。
研究開始から15年の歳月を経て、2014年に無胞子エリンギ「菌興PE1号」の品種登録を行い、同年10月から販売を開始。翌2015年に「濃丸」の名称で商標登録されました。
濃丸は生産者にとって、きのこ栽培における別の問題の解消にも貢献します。それは、胞子が栽培施設の壁面や換気扇に付着すると、その付着胞子を餌とするダニなどの害虫が発生します。その発生を防ぐために、施設を頻繁に清掃する必要があり、大きな負担となっていましたが、無胞子エリンギは、清掃作業の負担軽減につながります。濃丸はエリンギが育つ培地(菌床)にもこだわりがあります。普通、エリンギ栽培は培地に、主に東南アジアや中国からの輸入トウモロコシの芯材を使用しますが、濃丸は国産杉のおが粉を使用しています。また、国産の米ぬかも栄養体として利用しています。国内の山の資源を活用し、森林保全にも配慮した栽培方法です。培地にエリンギの種菌を接種すると、菌が繁殖し、培地全体が白くなります。(写真提供日本きのこセンター) 温度と湿度を変化させて刺激を与えると、エリンギの芽が出てきます。(写真提供日本きのこセンター)
接種から収穫までは約2ヶ月。収穫は早採りすることで、かさの形が美しいだけでなく保存性もよくなります。収穫はひとつひとつ手作業で培地から切り取るので、いしづきの部分がなく、調理の際に捨てるところがありません。さて、一番気になるのは味ですね。濃丸は味、香り、食感にもこだわりがあります。まず、濃丸を切る時から違いが分かります。包丁から伝わる手ごたえに弾力があり、中身が充実しています。持つと見た目以上に重量があります。
そんな濃丸でいろいろな料理を作ってみました。
濃丸のカルパッチョ仕立て。濃丸を輪切りにし、さっと茹でてから氷水でしめて、刺身のように味わいます。日本きのこセンターで「濃丸の刺身」を教わり、その時の柄のコリコリ、かさのぷりぷりの印象を再現したくて考えました。
濃丸のマリネサラダ。濃丸の下ごしらえは同様ですが、濃丸をマリネしてから野菜と和えることで、濃丸により味がなじみます。
濃丸とサーモンの押しずし。濃丸を縦に薄くスライスし、エリンギの形を活かして押しずしにしました。
濃丸と牛肉のそぼろご飯。濃丸は厚みのあるいちょう切りに。コリコリした歯ごたえがアクセント。すき焼き風の甘辛い味にも濃丸はよく合います。
濃丸といんげんとパプリカの焼きびたし。濃丸は長さを半分に切ってから、手で裂きます。さっぱりと食べられる夏向きのお浸しです。
濃丸とねばりっこ(長いもといちょういもを掛け合わせた鳥取県のヤマノイモ)のソテー。バルサミコソースをかけました。濃丸はオリーブオイルで焼くだけでも美味しいです。
濃丸は、焼く、蒸す、茹でる、煮る、炒める、揚げる、どの調理法でも濃丸らしい歯ごたえが損なわれず、コリコリ、ぷりぷり、つるつるとしたテクスチャーが楽しいです。
濃丸のもうひとつの特徴は、エリンギの臭いが控えめなこと。臭気は10分の1まで抑えられています。きのこの臭いが苦手で、エリンギを敬遠していた人には一度試してもらいたいです。食品スーパーでは、濃丸のパッケージに「鳥取発エリンギのにおいがほとんどしない不思議なエリンギ」「こどももよろこぶ えりんぎ 濃丸」というシールを貼って販売しています。(下段 写真提供日本きのこセンター)プレミアムエリンギ濃丸は、生産者を健康被害から守るために生まれましたが、見た目、香り、食感、栽培の資源に至るまでこだわった新しいエリンギです。生産者にも、消費者にも、そして自然環境にも優しいプレミアムなエリンギ「濃丸」を、ぜひ試してみてください。
現在、濃丸は、日本きのこセンターが栽培を委託した1生産者だけが生産しています。それを日本きのこセンターが集荷、発送。食品スーパーのマルイ(鳥取県・岡山県)とサンマート(鳥取県のみ)で販売しています。首都圏では常時販売しているところはありませんが、催事等で不定期に販売。他には、47クラブでお取り寄せができます。
プレミアムエリンギ濃丸の問い合わせ先:一般財団法人日本きのこセンター(鳥取市富安1丁目84番地 TEL0857-22-6161)
鳥取県のまつのべジフルサポーター・野菜ソムリエ上級プロ・アスリートフードマイスター2級の長島明子でした。