松野貞文の全国視察レポート

山梨県全滅覚悟のいちごハウス「出井絹江農園」

山梨県甲府市を訪れた松野社長。のどかな田園風景が並ぶ小曲町には小曲観光いちご組合があります。日照時間の長さと豊富な地下水に恵まれ、県内有数のいちご産地となっているこの地区では、地元の人はもちろん、観光で訪れた多くのいちごファンを魅了しています。そんな小曲町で全滅覚悟でいちごを栽培しているという出井絹江農園をご紹介します。山梨県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエプロ・パンアドバイザーの村上由実さんのレポートです。
ハウスいちご
出井茂さん、絹江さんご夫妻が営む出井絹江農園。元々茂さんのご両親が営んでいたという農園を受け継ぎ、いちごと野菜を栽培しています。ハウスは3棟ありますが、現在いちごを栽培しているのは中央のハウス1棟のみ。早速中に入ってみると、間口4.5メートル奥行63メートルのハウスに4つの畝が並んでいました。
ハウス
笑顔の松野社長
こちらの地区の最低気温はマイナス8度くらいですが、その時ハウスの中はマイナス1度~0度くらい。無加温で育ついちごを守るため、ハウスを二重にして、冷え過ぎないように工夫しています。

茂さんの本業はインテリアコーディネーター。「私は助っ人(笑)。栽培は手伝っているけど、あとはほとんど妻がやってくれているよ」と、控えめに話す茂さん。大切に育てているいちごを愛おしそうに見つめながら、お話をきかせてくださいました。
ご主人と苗
こちらの農園には、お客様においしいいちごを食べていただくために、こだわりがあります。まずは「安全安心」

土壌消毒をしません。
除草剤を使いません。
肥料も使いません。(基本的に無肥料)
化学合成農薬は一切使用しません。

そして、「環境配慮」

温室効果ガス発生の原因となる窒素肥料削減のため、無肥料栽培に挑戦中。
地球温暖化防止に少しでも貢献するため、無加温で栽培。

小曲町のいちご狩りのシーズンは1~5月頃。シーズンが終わると、マルチを剥いで土をかき混ぜて土壌改良を行うのが一般的ですが、土壌の消毒をせず、除草剤や肥料、農薬を使わないこちらの農園ではその作業が要りません。畝も毎年作り直す必要がなく、3~4年はそのまま使え、農薬散布の手間もかかりません。つまり、一般的な農園に比べると作業量は少ないかもしれませんが、別の問題があるのです。病害虫を防除するのが難しく、草取りも大変。成長も遅く、一般的に1シーズン7サイクルくらいできるそうですが、こちらでは5サイクルが限界。そのため収量の確保が難しいのです。

そこで考えたのがいちごのシーズンオフに、野菜を栽培すること。3棟あるハウスのうち2棟は野菜を作っているのです。トマトやトウモロコシ、インゲンなどの夏野菜が中心に、葉物も少々。収量が安定しないいちごの「保険」として、野菜を作って近くの直売所やスーパーに卸しています。

どうしてそこまでして「安全安心」「環境配慮」を目指すのか。「出井絹江農園では、子孫に対して恥ずかしくない自然を残すため、環境に配慮した農業に取り組んでいます」と、チラシには記されていました。

昔は農薬も肥料も使っていました。それでもハダニに葉を食べ尽くされ、ほとんど収穫できなかったこともありました。そこでハダニ防除のために天敵を使う。そうするとハダニは防げるが、炭疽病やうどんこ病は防げない。しかし、病気を防ぐために農薬を使うと、天敵が死んでしまう。そんな負のスパイラルに嫌気がさしたという茂さん

あるとき、「じゃ全部使わずやってみよう!」と、ご夫婦のチャレンジが始まりました。「全滅覚悟ですよ」茂さんは、それがとても難しいことを知らなかった当時の自分のことを笑いながら話してくれましたが、病気や害虫の発生で収量がゼロになるかもしれないリスクを背負いながら、ご夫婦はいちご栽培に臨んでいます。

こちらの農園で栽培している「紅ほっぺ」は静岡生まれ。「さちのか」と「あきひめ」の掛け合わせで、「さちのか」のコクと酸味、「あきひめ」の糖度と香りを受け継いだバランスの良い品種です。
真っ赤ないちご
「紅ほっぺ」という名前は、果皮や果肉の美しい紅色と、ほっぺが落ちるような食味の良さを表現してつけたと言われています。
中まで真っ赤
紅ほっぺ
「まだちょっと早いよ」と言いながら選んでくださったいちご、早速いただきます!「ん!甘い!」と松野社長も笑顔。
社長といちご
しかし、糖度を見ると8.7度。
糖度計
少し早かったかもしれません。出井絹江農園さんのいちごは、3月上旬に糖度10~12度くらいで、5月のシーズン終盤には16度くらいになるとのこと。「いちごの糖度を上げるには日照時間も必要。だから3月より5月が甘いんだよ」とご主人は語ります。
箱
出井絹江農園さんのこだわりのいちごをご紹介させていただきました。
完熟いちご

松野社長と出井さん

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