松野貞文の全国視察レポート

佐賀県甘くてみずみずしいアスパラガス「ゆっこ農園」

松野貞文社長の佐賀県視察はまだまだ続きます。以前より親交のある御厨博昭さん「ゆっこ農園」の御厨博昭さんも訪ねました。「ゆっこ農園」様は米・麦・大豆・アスパラガスを栽培しており、今回はアスパラガスのハウスを見学してきました。佐賀県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧さんのレポートです。

「日本一のアスパラガスの産地」を目指し、佐賀県では昭和29年にアスパラガスの栽培が鳥栖市で始まりました。病気などの発生で収量は伸び悩み、面積は減少の一途をたどりましたが、試行錯誤の末、昭和58年に病気対策として雨避けハウスが導入され、その後は部会の増加、産地間の積極的な情報共有や技術研究などを経て、平成27年には佐賀県は北海道に次いで収穫量・出荷量ともに第2位(平成29年3月総務部統計分析課の統計)となっています。

温暖な気候に恵まれた佐賀県のアスパラガス栽培は、雨避けハウスを使用します。御厨さんは米や麦以外にも何か栽培をと考えたとき、加温の必要がなく比較的設備投資が少ないという理由から、アスパラガス栽培を選びました。加温設備がないため、ハウスは二重になっています。

ハウスの中は湿度が70~80%以上になっており、中に入ると眼鏡やレンズが曇ってしまうほど。温度も30℃前後を維持しており、扉を閉めて湿度を100%に保つ「蒸し込む」状態にすることもあります。2~3月上旬のハウスの湿度は100%。ハウスを換気することで温度は下がり、ちょうど扉を少し解放し換気をしている時期でした。

アスパラガスは擬葉(茎)が生い茂る時期に5度の環境で500時間以上休眠させることで、擬葉の養分が根に移るといわれています。これを「養分転流」と呼び、緑の擬葉を完全に黄色に枯れさせることを「黄化」といいます。こちらの写真は6~9月の様子。この擬葉の色が11月頃になると黄化していきます。
  
ハウスを開放し、冷やし込む作業が11月から1月上旬まで続きます。しっかりと冷やし込むことで養分転流が促進できるのです。しかし、「今年は太いアスパラが生えてこない」と御厨さん。「昨年11月に雨が多かったことと、温暖化の影響で寒い時期になかなか温度が下がらず、冬期に十分に冷やすことが難しかったが、そのことがはっきりした原因なのかどうかはわからない」と語ります。暖冬がアスパラガスの生育に少なからず影響を与えていることを知り、松野社長も驚き、「温めることはできても、冷やすことは難しい」と、環境の変化への対策に注目していました。

また、春先にしっかり芽が出るよう、堆肥、肥料、水のバランスを考え、冬季間の管理を徹底して行うことも大切です。1月には、消毒のためハウス内の黄化した擬葉をバーナーでじっくり焼きます。その作業は1棟で半日かかる重労働。土に埋まっていて見えない根や茎といった部分に対して管理をしていくことの難しさを知り、真摯に取り組まれている御厨さんの姿に、松野社長も感心しきり。

このように年間を通じて手間がかかるアスパラガスは、キジカクシ科(古い分類体系ではユリ科)の多年草で、定植して2年目から収穫できます。収穫は春芽(2〜5月)と夏芽(6〜10月)と、旬が年2回あり、約15年ほど毎年収穫できる野菜。御厨さんが育てる「ウェルカム」は、早い時期からの出荷が可能な品種で、収穫は朝と夕の2回行う日もあります。

このようにアスパラガスの収穫専用のはさみは、長さが一定になるよう、メジャーが付いています。ピッキングセンターで25センチに揃えられるため、28〜30センチほどで収穫します。穂先が開く前にひとつひとつ丁寧にはさみで刈り取り、9割をJAに、1割を直売所に卸します。

4月中旬になると、親木が立ちはじめます。アスパラガスを収穫せずにおいておくと、2メートル以上にもなります。夏芽の収穫のために一旦収穫をやめて茎を伸ばし、松葉のような細い葉のようにみえる茎(擬葉=ぎよう)を展開することで株に養分を蓄えさせるのです。

(写真提供:御厨博昭様)

春芽と夏芽のハウス内では全く違った風景となります。春に立った茎が立派に成長すると夏芽の収穫が始まります。春芽の収穫は3月にピークを迎え、夏芽の収穫は6月下旬から7月にかけてピークを迎えます。

御厨さんはハウス収穫5年目、アスパラガスの株は通常15~16年は収穫できます。しかし、定稙して17~20年も収穫する方がいるそうです。佐賀県内では栽培20年を迎え、生産者の高齢化や株の老齢化が進行し、収量が低下している圃場もあります。下の写真は新規に苗を定植した風景、4月下旬ごろの一年目の株です。

こんな風にこぼれ種から自然に発芽することも。

この小さな芽が徐々に地下茎に栄養をため、年数を重ねるごとに株が大きくなり、たくさんのアスパラガスが採れるようになります。そこには農家様の徹底した栽培技術と管理が必要です。「毎年同じ条件で栽培できるわけではないので、去年が良い出来だったとしても、今年その保証はない」という御厨さんの言葉に、「農業というのは大変な世界、簡単にできることではない」と松野社長は語ります。

きりりと引き締まった容姿端麗なアスパラガス。この1本1本に御厨さんの愛情がたっぷり詰まっています。「みずみずしくて甘い!」と松野社長も大絶賛でした。


じわっと汗ばむような温度のハウスから出ると、心地よい春の風が吹いていました。御厨さん、どうもありがとうございました!

九州の最新レポート