まつのベジタブルガーデン

佐賀県ミネラル豊富な土壌で育つ「さが春一番たまねぎ」(前編)

まつのベジフルサポーターレポート

佐賀県のまつのベジフルサポーター、野菜ソムリエ、食育マイスターの前田成慧です。

佐賀県には【さが春一番たまねぎ】というJAさがで商標登録されたたまねぎがあります。それは極早生品種のたまねぎ。名前にある通り、春一番に出荷されるたまねぎで3月初め~4月10日までに収穫されたものを指します。今回はそんな【さが春一番たまねぎ】をご紹介します。
さが春一番たまねぎ
たまねぎは北海道など寒冷地の春まきと、関西や九州などの秋まきによって全国各地で栽培され、主に3月中旬から10月まで長い期間収穫できる野菜です(電照を使って1月頃から収穫する場合もあります)。その品種リレーの先頭に立って出荷される新たまねぎ【さが春一番たまねぎ】は、「貴錦(たかにしき)」「スーパーアップ」「MK-A22」「浜笑(はまえみ)」「博多こがねEX」「さくらエクスプレス1号」など様々な極早生品種のたまねぎの総称です。

試験的に作付けされている種類も含めると25種類もあるそう(佐賀県農業協同組合 園芸部 野菜花き指導課より聴取)。普段食べているたまねぎは極早生品種、早生品種、中生品種、晩生品種と、大きく分けると4つの品種群をリレーしています。

こちらは佐賀県杵島郡白石町のたまねぎ農家の重富啓介さん、里美さんご夫妻。
さが春一番たまねぎ
今回、極早生品種栽培中のハウスを訪問しました。代々農家であった重富さんは兼業農家でいわゆる「3ちゃん農業」でした。「3ちゃん農業」とは、じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの3人で農業を営み、働き手である男性(とうちゃん)が外に出て稼ぎ、農業は土日に手伝うというスタイル。日本では戦後の高度経済成長のあおりを受け、多くの専業農家がこの兼業農家になり農村人口減少のきっかけとなりました。
さが春一番たまねぎ
元々たまねぎを主体とした専業農家であった重富さんは、1991年からたまねぎの露地栽培と並行して、アスパラガスのハウス栽培を13年間続けてきました。アスパラガスの株の老齢化により収量が減少し、ハウスをアスパラガス以外に利用しようと、2004年からたまねぎのハウス栽培に転換、現在300平方メートル(3アール)サイズのハウス4棟を管理し、露地栽培の圃場を含めると約90アールの広さでたまねぎを栽培しています。

ハウスの極早生品種のたまねぎは地床育苗をして、種から苗を作っています。昨年は9月中旬に播種し、11月上旬に定植しましました。
さが春一番たまねぎ
そして、今月中旬、たまねぎの葉はこのようにピンと立っていて、収穫まであと1週間というところ。収穫期の目安はたまねぎが教えてくれるそうで、下の写真のように自然にパタッと葉が倒れてくる(倒伏)と、収穫のサイン。
さが春一番たまねぎ
倒れた後も根は元気で葉が枯れるまでたまねぎは大きくなり続けますが、極早生品種は水分が多いので葉が倒れても長くは畑に置いておけません。露地栽培の中生種・晩生種のたまねぎは葉が倒れて約1週間ほど畑でそのまま肥らせるそう。

収穫は全て手作業。露地栽培の場合は大型機械が畑に入りますが、ハウス栽培では一つひとつ手でこのように収穫します。身体に負担のかかる作業ですね。
さが春一番たまねぎ
 「ハウス栽培のメリットは、病気にかかりにくいこと。今年は予防のために1月上旬に1回、1月下旬に1回しか農薬を使っていません」と重富さん。ハウスの場合、雨や霜を防げるので病気になりにくく、天気の良い日は両サイドを開けて風通しを良くすることで病気を防げるため、できるだけ農薬の使用を控えているそう。
さが春一番たまねぎ
露地栽培のたまねぎは、雨や霜によって葉にキズがつくことで病気になりやすくなります。現在、佐賀県全域でたまねぎの生育不良を起こす「べと病」の警戒が高まっています。大不作だった2016年の気候によく似ているそうで、3月の気温の急上昇や降雨が続くことで不作となりました。佐賀県は大打撃を与える「べと病」対策を余儀なくされていますが、その点ハウス栽培は雨や風を防げるのが利点ですね。

ところでこちらのたまねぎ、球割れ(分球)してしまっています。同じように育てていても球が割れてしまう年があります。冬になる前に大きくなりすぎると生長点が2~4個に分かれ、それぞれが大きくなり球の形が変形した状態で育ってしまいます。
さが春一番たまねぎ
たまねぎ栽培の難しいところは水分管理です。極早生品種は寒さや霜、病気に弱いそうで、栽培にはとても気を遣います。水やりは翌日の天気を考慮しながら慎重にします。霜の降りない天候を見計らって水を与えるのが冬季の大変なところです。
 さが春一番たまねぎ
現在重富さんがハウスで育てている極早生品種は「スーパーアップ」が9割、「浜笑」が1割とのこと。以前は、「貴錦」と「浜笑」が主流でしたが、より早く収穫できて分球しにくい品種を毎年検討し、良い品種を追求しています。

さて、こちらは露地栽培の中生品種「ターザン」(左側)と早生品種「レクスター」(右側)。畝は15~20センチと高くして水はけを良くします。
 さが春一番たまねぎ
佐賀平野(干拓地)が大半を占める白石地区は町の総面積の85%が田畑で農業が盛んな地域。多くの農家が水稲の裏作でたまねぎを栽培しています。水はけの良い土地では平畝でたまねぎの栽培が可能ですが、佐賀平野の土は粘土のように粘りがあり、水はけが悪いため特殊な作業で水田を乾田化します。高い畝を作ることと、弾丸(だんがん)と暗渠(あんきょ)という手法を用い、排水対策をしています。
だんがん
弾丸とはトラクターに鉄の弾(円錐形)を取り付け稲収穫後の田を走り土中の地盤を切る作業。
暗渠
暗渠とは、穴とスリットが入った5センチ径のホースを水田の地下に埋め込み水が通る道を作ること。乾田化した時に余分な水を速やかに排水する効果があります。水田となった際は通気口、排水口の蓋を閉じて使用するものです。ハウス下の土中にも暗渠は施工しています。
   さが春一番たまねぎ
写真は白石町福富北区にある『玉葱発祥之地』という記念碑。佐賀県がたまねぎの一大産地として確立した経緯が裏側に記されています。米と麦の二毛作が盛んだった白石町は、さらに収益性の高いたまねぎを裏作として1962年から試験的に30アールの土地で栽培。翌年から本格的にスタートしました。白石地区に住む農家の方々の絶え間ない研鑽を感じずにはいられない記念碑です(参照:佐賀県JAさが白石地区たまねぎ生産)。

佐賀平野はもともと有明海の干潟地でした。海成沖積土が溜まりミネラル分を多く含む重粘土質でじっくりと土壌の栄養成分を吸収したたまねぎは、辛味が少なく、砂地の多い他産地よりも甘くてみずみずしくやわらかいのが特徴です。
  さが春一番たまねぎ
水田の裏作で試行錯誤しながらたまねぎを栽培してきた先人の知恵が引き継がれ、他にはない旨みと甘味があると評判の【さが春一番たまねぎ】。サクサクとした上品な歯触りとあっさりとした旨みをぜひ一度味わってみてください。

後編では、【さが春一番たまねぎ】の美味しい食べ方と収穫風景をお届けします。
佐賀県のまつのベジフルサポーター・野菜ソムリエ・食育マイスター前田成慧でした。

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